カケルを殴ろうとして自分を殴ったことが、マヒロをそこまで追い込んだのだろうか・・・。
だとしたら・・・・。
いや!違う!!
カケルは自問自答しながら校舎の渡り廊下を駆け抜け、反対側の校舎の屋上を目指す。
普段は行けないはずの屋上に、なぜ・・・・?
カケルは、階段を一段ずつとばしながら登り続ける。
屋上は、雨漏りの工事のために開いていたのだった。
そして、カケルの視線の先にマヒロが写った。
マヒロは、工事の大人たちの目につかない場所にいた。
屋上の外側の柵を乗り越えようとしている。
「マヒロ!! や・・・やめろ!!」
カケルは夢中でマヒロのそばに駆け寄り、ヒザを両手でつかんで体を折り曲げてあえいだ。
汗がどっと全身から吹き出す。
「お前には関係ない」
振り向いたマヒロが、冷静な声で言う。
「なぜ、そんなことするんだ!」
「俺にはもう、いる場所がないんだ」
居場所がない・・・マヒロの寂しさが、ふとカケルの心に同じ思いを投げかけた。
「マヒロ! 飛び降りたら・・・死ぬぞ!!」
言葉が、勝手にカケルの口から飛び出す。
「いいんだ・・・お前にしてみりゃ、いい気味だろ?
見物に来たのかよ!」
「マヒロ! よく聞け!! 人は死んでも命がある。人の命は永遠なんだ。
飛び降りてもお前の存在は消えて無くなりはしないぞ!
飛び降りたヤツがどうなるか、知ってるか?
まだ死んでないと思い込んで、また飛び降りて・・また飛び降りて・・・
バカみたいに何度も何度も繰り返すんだぞ!!
お前、そんな惨めなユウレイに・・・なりたいのか?
お前が死んでも、何もならない。
周りの人を悲しませるだけだ。
お前のお母さん、お父さんがどんなに悲しむか考えろ!!」
「ふ・・・誰も悲しまないよ・・・俺が死んだって」
「マヒロ、オレの妹は5年前に病気で死んだ。5歳だった・・・。
母さんは悲しんで悲しんで・・とうとう病気になって・・・。
オレのこと、忘れてしまったんだ。
だからわかるよ!! お前が死んだら、お前のお母さんがどれだけ悲しむか」
マヒロは、必死に訴えるカケルの言葉に、勢いをなくしたようだ。
「マヒロ、お前は一人じゃない。みんな心配してるよ」
マヒロは、ゆっくりとカケルに顔を向けた。
「俺はお前にさんざんひどいことを言ったり、したりしたのに、
なんで助けようとかするわけ?
訳わかんねえ。」
「さあ・・ね、死んでほしくない・・からかな」
その頃には、工事の大人たちや同級生や先生たちが、ガヤガヤと屋上に集まって来ていた。
下の方も賑やかになり、大きな大きなマットが用意されていた。
「マヒロ、教室に帰ろう。」
カケルが手をさしのべた時、担任の岡本先生が髪を振り乱しながら駆けつけた。
「篠山君! バカなことはやめなさい!!」
マヒロは、一瞬のうちに表情を硬くし、柵を乗り越えようとした。
その時、カケルはマヒロの意思よりもはるかに強い、黒くて冷たい邪悪な意思を感じた。
その黒い影はマヒロをあっという間にすっぽりと包み、闇の中へ引き込もうとしていた・・・・。
「や め ろ !!」
カケルは心の中で叫んだ。
次の瞬間、カケルは自分の中から、何かが抜け出したような感覚がして・・それは強い強い光を放ち、バサッと大きな白い翼を広げたような気がした。
そして黒い影に向かって黄金色のまぶしい剣を振り下ろし・・・黒い影は跡形もなく消え去った・・・。
夢?
気が付くと、カケルはマヒロを抱えてコンクリートの床に転がっていた。
今のは・・・何?
夢?
マヒロの激しく泣く声にハッと我に返ったカケルは、マヒロが無事なことを確認すると、ホッとして力を抜いた。
周りの緊迫した空気も、一気にゆるんだ。
やがて、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒たちは先生たちに追われながら、それぞれの教室に戻って行った。
青い空がまぶしい日だったと、後になってカケルは思った。
マヒロは体格のいい男の先生3人くらいに支えられて、保健室に連れて行かれた。
そして母親が呼ばれ、一緒に家に帰って行った。
マヒロが死ななくてよかった・・・・。
カケルは心からそう思った。
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