2007-06-28(Thu)
Moonbird 7
身支度を整えて下に降りると、祖母の幸子の作るみそ汁の香りが
カケルをふわりと包んだ。 「おはよう、カケル!」 「お・・おはよう・・」 祖母がいつもよりものすごく若く見えて、カケルはドキリとした。 落ち着いた色のダイニングテーブルには、ミーチャがすわっていた。 「おはよう!・・・カケルお兄ちゃん」 「お・・おはよう・・」 ミーチャの、恥ずかしそうな笑顔がまぶしすぎて、カケルはあわてて自分の 席についた。 いつもよりも華やかな雰囲気を身にまとう幸子は、朝食をテーブルに並べ始めた。 「美沙子は、目玉焼きが好きなのよー、それから、わかめのおみそ汁 もねーー!」 ミーチャを見て、にっこり笑う幸子。 ミーチャもまた笑い返す。 キャベツの千切りが添えられた目玉焼きが満月のようだと、カケルは思った。 「おはよーございまーす」 そこへ、カケルの父があくびをしながらリビングに入ってきた。 サッとミーチャの顔に緊張が走る。 幸子も、不安そうに父の視線を見守る。 父は、ミーチャを見た・・・はずだが、何もなかったように新聞を広げた。 カケルと幸子は、緊張がほどけないまま、箸を手にとった。 やがて新聞から顔を出して、父はテーブルの上をじっと見つめた。 そして、ミーチャを・・・・じっと見た。 「なあ、何でそこに皿が並べてあるんだい? 誰もいないのに」 えっ? (*゜ロ゜) だ、誰もいない? 確かにミーチャを見たのに・・・・・。 父さんには、ミーチャが見えていない? 幸子も、明らかにショックを受けていた。 「あの・・・さあ・・」 カケルが何も思いつかないまま、何か言おうとすると 「ああー、うっかりしてたわ・・私ったら何してたのかしら」 曖昧にカラカラと笑いながら、幸子はミーチャの前のごはん茶碗や目玉焼きの皿を自分の方に引き寄せた。 父には、ミーチャが見えていない・・・ということは、ミーチャのことを 父に説明する必要がないということで・・・。 それは喜ばしいことなのか、悲しいことなのか、カケルにはすぐには判断でき ず、複雑な気持ちで目玉焼きにかぶりいた。 ミーチャはじっと悲しそうにうつむいていて、幸子はそんなミーチャをじっと見つめていることしかできずにいた。 「ごちそうさまーーーっ!」 カケルは、気まずい雰囲気を断ち切るかのように元気よく席を立ち、洗面所に 向かった。 「ごちそーさまでしたー」 父もギーッと音を鳴らして席を立ち、カケルの後ろから歯ブラシを求めて手を 伸ばす。 「なあー、お義母さん何かヘンじゃないか?」 鏡越しに、カケルに話し掛ける。 カケルは、歯を磨きながら考えた。 ミーチャのことを話すべきなんだろうか。 でも、見えていないのに、どう説明すればいいのか見当もつかない。 「いつか、話すよ」 やっとそれだけ言うと、カケルは洗面所を後にした。 不思議そうにまゆをしかめながら歯磨きを始めた父が、いつもの時間に家を出たのを2階の部屋から見届けて、カケルはホッと胸をなで下ろした。 「どうしたんですか?カケルさん」 寝ぼけまなこの、まだ二つの直線の目をして、ケルンが尋ねた。 「父さんには・・・ミーチャが見えないらしいんだよ」 「そうですか。信じないものは見えない。それは法則ですね」 「あれ?ケルンはミーチャのこと知ってるの?」 「ああ・・はい。ユナさんからお聞きしていますので」 「ユナから? でもケルンはずっとここで寝ていたよね」 「私とユナさんは、つながっているんです。私は、ユナさんの想いから 作られた存在ですから」 「ふーーん、そうなんだ」 わかったような、理解できないような気持ちで、カケルはランドセルをしょった。 「じゃあ、学校に行ってくるよ」 「はい、お気をつけて」 階段を下りると、ミーチャと幸子が朝食を食べていた。 ミーチャはおいしそうにスプーンとフォークで目玉焼きを口に運んでいるが 実際の目玉焼きは全く形を変えていなかった。 それでも、ミーチャと幸子は、とても幸せそうだった。 思えば祖母は、母の美沙子が自分をユナだと言い張って、カケルをママと呼び本当の母親である幸子の存在を、拒否していた。 息子だとわかってくれない気持ちと、自分の娘に存在を認めてもらえない気持ちは、そのつらくてやりきれない気持ちは・・・同じなのだった。 幸子もまた、この5年の間、つらくて寂しい日々を送ってきたのだ。 幸せそうな祖母の姿は、あたたかい光を放っているようにカケルには見えた。 theme : 児童文学・童話・絵本 - genre : 小説・文学 |


