月の光  第二章  ユナ  続き
2006/02/24(Fri)
    「あたしね、お月様の世界でお兄ちゃんと遊びたいって、いつも思っ ていたのよ」
ユナは、カケルを振り返って、笑顔で言った。
    「かけっこ、おもしろかったね。風みたいにビューンって気持ちよ  かったあ!」
    「うん。またやろうよ。今度はボクが逃げるよ。絶対つかまらないか らね!」     
    「だあめっ! 今度もユナが逃げるの!」
    「何だって! よっしゃ、先に降りた方が逃げるぞー!」
 カケルは何だかムキになってシャボン玉の中で立ち上がり、ジャンプしたり、天井を引っかいたりし始めた。
     「わあーー、ダメですよぅカケルさん、落ちたらどうするんですか あ!」
ケルンがあわてて、短い手をぐるぐる回している。
カケルはかまわずに今度は足元をつまみ始めた。
やがて小さな穴が開き、カケルは小さく「やった!」と言いながら、更に穴を広げて行く。
きっと、光たちと黄金色の草が自分を受け止めてくれる! カケルはそう信じて、穴の開いたシャボン玉から、目をつぶって飛び降りた。
 すると、するすると下から黄金色の草が伸びてきて、カケルの背中をふわりと受け止めた。
そしてそのまますべり台となって、らせんを描きながらカケルは地面まですべって行く・・・・と、目の前にもうひとつのすべり台がふいに現れ、ユナがカケルよりもはるかに早くすべり降りて行った。
     「お先にーーー!!」
     「ユナ! ずるいぞ!!」
 ユナはけらけら笑いながら大地に降りると、あっという間に黄金色の草の中に消えて行った。
 ったく、ユナの奴・・・。カケルがぶつぶつ言いながらすべり降りると、はるか上の方からケルンの声がして・・・・ふわん!とカケルの足にぶつかった。ケルンは両方の目をバツ印にしながらひっくり返っている。
     「どいて下さいって言ったじゃないですかあ!」
     「ごめんごめん。」
そう言いながら、ケルンの顔がおかしくてカケルはぷっと吹き出してげらげら
笑い出した。
     「ひどいですよーー、何で笑うんですかー!」
今度は、大きなバツ印の顔になってケルンが怒ると、それもまたおかしくて
カケルは体を前に折り曲げて、ますます笑った。
 こんなに笑ったのは、生まれて初めてかもしれない。
笑うことすら、カケルは忘れていたような気がする。
ユナのことで両親は頭がいっぱいで、そんな両親のつらい顔ばかりをカケルは見て過ごしてきたのだから・・・。
     「あ、ああ、ごめんごめんケルンはあーーーおかしかった」
     「ところで、ユナさんはどこへ行ったんでしょうね。」
     「そ、そうなんだ。ユナの奴めどこに行ったんだ?」
 カケルは気を取り直して深呼吸した。
月の光が、スーーッと体の中に入ってくる。心の奥にしん、と届いた光が、カケルの体中に行き渡る。
嬉しい、とカケルは感じた。ここにこうしていることが、とても嬉しい。
この瞬間、ユナを好きだと心から思っている自分が。素直な自分が。
そしてユナと同じように笑顔になっている自分に気がついた。 
ユナも、幸せなんだ・・カケルはまた月の光を深呼吸した。
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