MoonBird 1 
06/05.Tue22:33
 またひとつ、季節がめぐろうとしていた。
刺すように冷たかった冬の風が、日ごとに柔らかくなる。
病院を出ると真っ暗だった空が、明るくなって行くのは嬉しい。
 しかし、カケルの足どりは重いーーーー。
母の美沙子に、「ママ」と呼ばれる気持ち・・。
息子なのに。まだ小学生なのに。
こみ上げる思いと同時に涙が目に盛り上がる。
それを懸命にこらえて、カケルはやみくもに足を速める。
 「何のために自分は生きているんだろう。」
 「何のために生まれてきたんだろう・・・」
胸の奥に重く重く沈んでいる思い。
その黒々とした存在は、ふいに手を伸ばし、カケルを捉えようとする。
必死に逃れながらも、いつしかその底なしの沼のような闇に落ちてしまいそうで怖かった。

 そんなカケルを、祖母の待つ家は温かく迎えてくれる。
遠くから家に明かりが灯っているのを見ると、カケルは救われるようにホッと
するのだった。
 「お帰り、カケル」
その笑顔に、頑なになりそうな心がふっと和むのを感じるのだった。
 「美沙子は元気だった?」
 「うん・・・・」
この会話も、もうどれくらい交わされただろう。
そして、後どれくらい繰り返されるのだろう。
カケルは夕食と一緒にその思いを飲み込んだ。
 「ごちそうさま」
 「はい。お風呂に入ってね」
 「うん・・・」
 「明日、何か用意するものはない?」
もう、それも何年も交わされてきた会話である。
何かあれば伝え、なければ自分の部屋に向かう。

 リビングから出ようとしてドアを開けた時、カケルをいつもと違う感覚が
襲った。
 サーーッと冷たい塊が、頭の頂上の一点からものすごい勢いで全身を
駆け巡って行った。
 ・・・・・・・・・? ・・・・・・
全身を耳にして、全力でその原因をつきとめようとする。
・・・・・やがて小さな小さな声が、カケルの耳に届いた。
  「・・・・えっ・・ふ・・えっえっ・・・・」
     泣いている?
     誰が?
カケルは、その場を去りたい気持ちに駆られると同時に、声のする方向から
目を離すことができなくなった。
後ずさりしたくても目をそらしたくても、体が固まったように動かない。
そして・・・。
その誰かがこちらに向き、ゆっくりと近づく気配が。
  「う・・うわっ・・・うわぁーーっ!!」
思わず知らず、声を上げるカケル。
その声に、祖母の幸子が飛んできた。
  「どうしたの?カケル!!」
幸子の目に、階段を見つめ、一歩も動けずに怯えてふるえるカケルの姿が
映った。
おそるおそる階段を見上げると・・・。
・・・・・・・そこには、5,6歳くらいの女の子が立っていた。


* テーマ:児童文学・童話・絵本 - ジャンル:小説・文学 *
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